平成17年12月13日のインタビュー

西川氏 最近どうですか?

おっさん まぁ、ぼちぼちやな。

西川氏 最近やけに寒いですねえ。

おっさん まあな。 冬やからしゃーないやろ。

西川氏 まあ、 それを言われちゃあおしまいですが。 確かにそうですよね。  ところで研究の方は順調ですか?

おっさん まあ、そこそこやな。  珍しくオッサンがメールで研究の進行状況を聞いてきたわ。

西川氏 オッサンって?

おっさん ああ、一緒に研究してる 教授のことや。

西川氏 (ややこしいのう) ああ、あの いわゆる魚の卵的教授ですね?

おっさん そうそう。

西川氏 今はアナーバーに居ないんですか?

おっさん そうや、今は多分イギリスちゃうか。  アナーバーに居ても、そないしょっちゅう会わんから同じことや。 消えるときも黙って 消えるし。 勝手なおっさんやで、ほんま。 わしも勝手やけど。

西川氏 そんないい加減なもんで、よく研究を進められますねえ。  その教授って、要するにおっさんの上司でしょ? う〜ん、おっさんはおっさんで 勝手に片手間活動なんかもしてますし。 なんだか二人とも勝手気ままに って感じがするんですけども。

おっさん 基本的にはそうや。  ただ、一応NASAやらエアフォースから何を期待されてるか、つまり研究のゴールという べきものは二人とも分かってるから、後はだいたいで進めていけばええんや。  わしらはいわゆる理論家やし、実験といってもプログラムを 書いて走らせるだけやから、大掛かりな装置もいらんし、 ある意味ラクなんやなあ、これが。 だから、何かええもんが見つかれば ワオーって感じで二人で無邪気に戯れるし、何もなければ それぞれ独自に、いや別に一緒にでもええねんけど、七転八倒のた打ち回るだけや。  とにかく脳ミソをフル回転するだけや。 

西川氏 なるほど。 まあ、研究の進め方とか 取り組み方は人それぞれだし、分野やトピックによっても違いますからねえ。 

おっさん そうやなあ。 わしはそれを「文化」 と呼んでる。

西川氏 文化?

おっさん そうや。 人間が集まれば、 その集団の中でのローカルな習慣というか、ルールというか、考え方というか、やり方というか、 常識というか、何かそういうもんが出来てくるもんや。 例えば、ノートルダム大学に行ったとき 、教授の名字を使ってSmith Labとか言うてたのを聞いて ちょっぴりビックリしたわ。 教授の名前で、佐藤研究室とか呼ぶのは日本だけやと 思ってたからな。 いや、別にそれはそれでええんやで。 ただ、そう思ってただけで。  しかも、そこの研究室の学生とかが教授のことを「ボス」と呼んでたのを聞いて、 これまたビックリしたがな。 教授本人に向かってもそう言うのか、影で言うてるだけなのかは 分からんけども。 まあ、 正直な話、教授のことをボスと呼んだこともないし、 そんな人間に出会ったことが無かったんや。 でも、どうやらそこでは それが普通らしい。 で、教授が忙しいのか知らんが、指導はポスドクとかから受けたりとかしてたり。  とにかく、そういうのは初めてやったわ。 ミシガンのエアロ、というか わしの指導教官に関しては、全然そういうことが無かったからなあ。  基本的には教授個人によるんやろうけど、学科とか分野によって やっぱり雰囲気が違うことがある。 それはやっぱりその世界の文化なんやと思う。 

西川氏 なるほどねえ。 確かにそうですねえ。  私の知り合いに生命科学系の研究者がいますが、やはりボスといいますし、 その研究室は教授の名前で呼ばれますねえ。 でも、工学系ではあまり聞かなかったりしますねえ。  そういえば、理学系は理学系でまた違った雰囲気がありますねえ。  やっぱり分野によって違った文化があるんでしょうかねえ。

おっさん あるんちゃうの。 でもまあ、 そんなことは大したことではないんや。  重要なことは、人間というのは自分の属する集団の文化に「馴染む」ということや。 

西川氏 なじむ?

おっさん そうや。 ある集団に属する為には、 その集団の文化に馴染む必要があるやろ。 そうでないとその集団に 属しにくくなるから当然やわな。 というか、よほどのことがない限り 馴染んでいくのが自然な姿や。 例えば、日本で育った人間が日本の文化に馴染んでいるのは 当たり前のことやし。  また、アルバイトとか仕事を始めて、最初はオドオドしてたのが だんだんと慣れてくるのもそうや。 こないだまで学生やった奴が卒業して先生になれば、 急に先生と呼ばれるようになったりして、職員室で先生方と机を並べるようになって、でも、 それもすぐに馴染んでいく。  また、初当選して初めて国会議員になって、最初はぎこちなかったけども、 だんだん先生と呼ばれることに慣れて、最後にはかなり偉そうな態度をとるようになるとか。  う〜ん、それとか、タバコを吸うようになれば、街でポイ捨てなどを平気で行なうオッサンどもと 同じようにポイ捨てをするようになってしまうとか。  まあ、こういうのも 「馴染む」の例やわな。 要するに、その集団内の人間達が普通だと思っている ことを、同じように普通だと思うようになる。 

西川氏 はあ〜、分かりますよ。  っていうか、そんなの当たり前じゃないですか。 で、それが何か?

おっさん 何が「はあ〜」や。  そんなアホみたいな声を出すなよ。 気色の悪い。 話はここからやないかい。

西川氏 (あんたがアホみたいなこと 言うてるんやがな) はあ。

おっさん お前はこれを逆に利用するということを 考えたことがあるか?

西川氏 逆? う〜ん、どういうことでしょうか?

おっさん つまり、彼らのようになりたいと 思う人間の集団に近づいて、それに馴染んでやろうという考え方や。 

西川氏 ほーう。

おっさん 例えば、芸人の弟子というのが まさにこれや。 憧れというか尊敬する芸人のソバについて、馴染もうとしてるわけや。 その昔、そのまんま東か誰かも言うてたがな、この人と同じ空気を吸いたいと思って弟子入りしたとか、 何とかかんとか。 まあ、この場合は集団というよりは一人の人間やけども、 まあ同じことやわな。 それから、一生懸命勉強して一流大学といわれるところ に入るのも、ある意味、一流の人間集団に馴染んで自分も一流になるという風に考えられるわな。  もちろん、とにかく入学してしまえば馴染んでいくわけやから、一生懸命勉強せずに 金を積んで入学してもええんやけども。  それから、研究者で言えば積極的に一流の研究者と働くことやな。  それは、政治家でも、プロレスラーでも、 料理人でも、音楽家でも、何でもそうや。  もっと身近な例でいえば、愚痴ばかり言ってダラダラしてる友達ではなくて、 前を向いて懸命に頑張ってる友達らと積極的に付き合って刺激をもらい、自分も頑張るようになるとか。  脱サラして自分で会社を興したかったら、そういうことをしている人とか集団 に近づいて、刺激とか勇気をもらったり、また有用な情報を得たりして夢の実現に近づくとか。  要するに、何か目指すものがあるとき、そうなりたいと思う人間の集団に近づくということは、 その目標を実現する為の一つの有効な手段なわけや。  その人間の集団に馴染む性質を積極的に利用するということなんや。

西川氏 ああ〜、なるほどね。 はいはい。  それはわかりますよ。 私の父が昔「不良と付き合うな。 不良と付き合うと 不良になる! 立派な人間と付き合わなあかん!」などと言ってましたが、 それはまさしくそういうことなんですよね。 あのときは反発しましたが、今になってよく分かりますよ。  不良と付き合うと、確かに、多少は彼らと同じように行動せざるを得ないんですよね。  要するに、親としては自分の子供は良い集団に馴染んで欲しいというわけなんですね。  その為にお金を掛けて子供をいい学校に行かせたりする親も多いですし。  それも、ある意味、親の立場から見れば、おっさんが言うように 馴染む性質を積極的に利用しようとしているということですね。 

おっさん まあ、そんな感じにもなるやろう。 とにかく、その馴染む性質を意識的に積極的に利用することや。 逆に言えば、 何かうまくいかないときは自分の周りを見渡してみて、自分がどんな集団の中に 居るのか確認してみたらええんや。 

西川氏 なるほどね。 いいじゃないですか。  それでは、今日はこれで終わりにしたいと思います。 

おっさん おいおい、もう終わりかいな。

西川氏 (もう十分ちゃうの?) いや〜、 私も年末に向かって忙しいんですよね。

おっさん 何やそれ〜。 この時期になったら 皆そういうことを言うんや。 ほとんどの人間は忙しくもないのに、 雰囲気だけで「年末に向かって忙しい」などと言うとるんや。  ある意味、周りに取り残されたくないという恐怖心から出てくる言葉や。  これは典型的な「馴染む」の悪い例や。  お前もそういう安物人間のうちの一人やったんやなあ。 残念やなあ。 お前だけは 年末になっても忙しくない立派な男やと思ってたのに。 いや〜、残念や。 

西川氏 (年末になっても忙しくない立派な男って?) いや、 あのぉ〜、私の場合は本当に 忙しいんですけども。。。

おっさん ほうら、またきた。  そうやって、自分は特殊やと思いたがるんや。  安心感を得る為に皆と同じことをするが、同じであることを認めたくないから、 何かちょっとでも違う点を挙げて 自分は違うと主張する。 悲しいなあ。 ほんま、わし悲しいわ。 あっ、涙が 出てきた。 うぇ〜ん。

西川氏 (このおっさんアホや) そうですか〜。 分かりましたよ。  もう忙しいなんて言いませんから、悲しまないでください。 

おっさん おう、そうか!

西川氏 はい、私、実は全然忙しくないんです。  ヒマでヒマでどうしようもないんですよ。 だから、これからヒマつぶしに仕事でも してきますよ。 

おっさん おう、それはええがな!  その調子や! 仕事ってのはヒマつぶしにやるもんや、そうや、そうや!  お前もわしに馴染んできたがな。 あっ、なんか 嬉しくなってきた! イェ〜イ!

西川氏 (変わっとんなあ、このおっさん。  絶対に馴染みたくないわ〜) それは 良かったです。 それでは、ゆるりといってまいりま〜す!

おっさん いってらっささ〜い!

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